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オフサイド・バックパッカーズ(13)

(3)

思わぬ遠出から、ホテルに戻ったのは“7時半から9時”と定められた朝食時間の、終了15分ほど前だった。

あわてて食堂に駆け込むと、昨夜のフロントマンが、今朝は朝食の給仕係を務めている。やっと最後のお客が来たという感じで、卵の焼き方を尋ねてくる。「フライドエッグ、ターンオーバー」と短く告げ、セルフサービスのトーストとサラダをトレイに載せた。

コーヒーを入れようとカップを揃えに、配膳テーブルに向かうと、ここにもフロントのカウンターに置いてあるのと同じ体裁の中東風の陶器飾りが置いてある。

「フライドエッグ、ターンオーバー」と一言だけで、皿を置いていこうとした彼に、陶器飾りの意味を訊ねると。「イスラミック・ニューイヤー」の一言が返ってきた。重ねて「いつ?」との問いかけにも、「明後日」とこれまた短く。

イスラム正月という耳慣れない言葉。ふと思い出したのは、神戸出港の2日後、最初の寄港地の上海で遭遇した春節、俗に言うチャイニーズ・ニューイヤーの直前の喧騒だった。

赤い正月飾りで溢れた街中もそうだが、ことに上海站(鉄道駅)での、帰省の人々が切符を求めて駅構内で起居する様。街かどで拾い読みした中国語の新聞の、数日泊まり込むのもごくありふれた風景であると、読める漢字を読みつないで、やっとのことで翻訳してみた囲み記事の記憶だった。

《今年3度目の正月を迎えることになるのか》 と、独り言。

熱いコーヒーの冷めるのを待ち切れず、少し多めに注いだミルクでなんとか飲み干し、今日の予定を考えてみる。

まずはテヘランまでの航空券の予約、ビザの要否の確認、試合のチケットの入手方法、と思った事を、ガイドブックの余白に書き並べる。電話帳でイラン航空のフランクフルト支店を探しだし、イラン総領事館と日本領事官と共に住所を赤ボールペンで囲む。

イラン航空の支店はハウプトバーンホフ近く、日本領事館もカイザーシュトラッセを抜ければさほど距離は無いと安堵するものの、イラン総領事館はフランクフルト郊外の住宅街の中だと気付いて、朝の遠出を少し後悔した。

まずは駅前、そしてSバーンを乗り継いで郊外へ、何の確約も無い、しかし、忙しくなると思われる一日のスケジュールに、昼食の時間は無いものと覚悟を決めた。

《どうしたものかな》 と、目線を泳がしてみる。

窓際の配膳テーブルに残った数個のパン。くだんのフロントマン兼給仕係の彼に目配せすると、持っていけとでもいう風に視線を返す。

先の工事現場の男達と同様に、コーヒーをポットに詰め、サブザックにパンと見知らぬ種類のチーズ数かけらを放り込んで、動き始めたばかりの石造りの街に飛び出した。(つづく)

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